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研究内容
研究内容

主な研究とプロジェクト

私たちは、神経画像技術や疫学的手法、遺伝学的手法を用いて、自閉症や覚醒剤精神病、統合失調症といった精神神経疾患の病態形成メカニズム解明に努めています。以下、【あらまし】だけを読んでいただければ概略が分かるように致しました。ご興味のある方は、【その詳細】もぜひお読みください。

1.自閉症に関する研究

【あらまし】 自閉症は乳幼児にはじまる発達障害の一つです。社会的相互作用(対人関係が成り立ちにくい)やコミュニケーションの障害(言いたいことをうまく伝えられない)、反復的行為・限局した関心(同じ行為を繰り返したり、一つのことにこだわったりする)が主な症状です。自閉症の発症割合は150人に1人程度と言われ、最近は世界的に増加傾向にあるようです。残念ながら、自閉症の原因については不明なところが多く残されています。また、有効な生物学的治療法(薬物治療など)もありません。そこで、以下のように様々な研究手法を駆使して、原因や症状の成り立ちを探る研究を行っています。

自閉症の機能的磁気共鳴画像(fMRI)研究

【あらまし】 「他者のこころが読めない」ことは自閉症の特徴です。私たちは、この原因が脳の特定の部位の活動性低下にあることを明らかにしました。

【その詳細】 自閉症の特徴的症状である社会的相互作用やコミュニケーションの障害は、自閉症者が他者の感情を読み取れないことに由来すると考えられています。これはさらに、自閉症者では他者の感情表出が理解できず、また、他者と視線を合わせないといった行動様式などから構成されると考えられています。そこで私たちは、成人自閉症を対象にfMRIを用いて、他者の感情表出や視線弁別の際に活動する脳部位を測定し、自閉症の特徴的症状の神経基盤を調査しました。
他者の感情表出(嫌悪、恐怖)を見る課題では、自閉症者では定型発達者と比較し、皮質-辺縁神経網において異なる活動が認められました。つまり、表情負荷刺激に対して、自閉症者では、定型発達者に認められる皮質-辺縁系の活動が弱かったのです。これらの部位の活動低下が自閉症で他者の感情表出理解の障害に関連していることが示されました。

目が合っているかどうか見分ける課題(視線弁別課題)では、自閉症では、定型発達者に比べ、上側頭回と内側前頭葉に強い賦活が認められました。上側頭回は言語過程に関与しているため、自閉症では、視線弁別時にも言語的プロセスが用いられていると推測されます。また、内側前頭葉は実行機能に関係しているとされるため、実行機能のプロセスが利用されていることが示唆されました。これらの結果から、視線弁別時に定型発達者とは異なる神経ネットワークが用いられていることが分かりました。

自閉症のポジトロン・エミッション・トモグラフィ(PET)研究

【あらまし】 化学物質の機能を生きた脳内で見ることのできるPET画像を使って、自閉症の諸症状が一部の神経系の活動性低下と関係していることを突き止めました。この神経系(セロトニン系)の不調が自閉症の原因となっている可能性があります。

【その詳細】 自閉症では神経伝達系の変調、特にセロトニン系の変調が古くから指摘されています。例えば、一部の自閉症者では、血中セロトニン濃度が上昇していることが、1960年代から繰り返し報告されています。また、セロトニンの原料となるトリプトファンが欠乏した食事を続けることにより自閉症の症状が悪化し、SSRI(選択的セロトニン取り込み阻害剤)により自閉症の症状が改善することが報告されています。しかし、自閉症の脳のどの部位でのセロトニン系の異常が症状に関連しているのかは不明でした。
私たちはPETを用いることにより、初めて自閉症の全脳のセロトニン系(脳内セロトニン・トランスポーター密度)の変化を調査し、症状との関連を検討しました。その結果、自閉症者では全脳の広範な領域でセロトニン・トランスポーター密度が低下していることが明らかになりました。さらに、この低下は自閉症の中心的な症状、すなわち、「社会性の障害」や「強迫的な行動様式」と関連していることが分かりました。この研究から、自閉症の病態発生にセロトニン神経の障害が強く関与していることが初めて示されました。

自閉症の血清研究

【あらまし】 自閉症をもつ方々の血液に、ある種の物質の不足があることがわかりました。これらの物質を測定することで診断検査ができる可能性があります。

【その詳細】 私たちは成人の高機能自閉症(知的障害のない自閉症)の血液を用いて、自閉症の病態に関連が示唆される以下の生体分子について検討しました。
 グルタミン酸は中枢神経系において主な興奮性神経伝達物質であるばかりでなく、ニューロン(神経細胞)の増殖、分化、遊走、軸索発生やニューロンの生存において重要な役割を果たしています。私たちは、グルタミン酸神経伝達物質に関連するアミノ酸であるグルタミン、グルタミン酸、グリシン、D-セリン、L-セリンの末梢血清中濃度を測定し、成人高機能自閉症では血清グルタミン酸濃度が定型発達者に比べて有意に増加していることを示しました(図4)。また、ニューロトロフィンのひとつであるBrain-Derived Neurotrophic Factor(BDNF)は、神経幹細胞からの分化や生存維持、神経可塑性にも重要な役割を果たしている因子です。上皮増殖因子Epidermal Growth Factor(EGF)は発達期から成人の脳のほとんどの神経細胞や成熟アストロサイトで検出されます。また、肝細胞増殖因子Hepatocyte Growth Factor(HGF)も神経細胞の発達に重要な役割を演じていて、皮質介在ニューロンの移動にも関与しています。トランスフォーミング増殖因子Transforming Growth Factor-b1(TGF- b1)は発達期の神経系に発現し、中枢神経系の発達に重要な調節因子であることが分っています。脳の発達にかかわるこれら4つの因子について調べたところ、成人高機能自閉症患者の血清中では、いずれの因子の濃度も定型発達者に比べて有意に減少していました。
自閉症の病態に免疫系の異常が関与していることを示す証拠はたくさんあります。そこで炎症関連物質として末梢のリンパ球が炎症部位に浸潤する際に必要な一連の接着因子に注目しました。局所の炎症に際し、Intercellular Adhesion Molecules-1(ICAM-1)、Vascular Cell Adhesion Molecule-1(VCAM-1)、Platelet-Endothelial Adhesion Molecule-1(PECAM-1)、E-Selectin、L-Selectin、P-Selectinなどの接着因子が順次共同して作用し、リンパ球は血管内皮に接着し、血管壁外の炎症部位へ移動します。それぞれの可溶型であるsVCAM-1、sICAM-1、sPECAM-1、sE-Selectin、sL-Selectin、sP-Selectinを測定した。成人高機能自閉症では血清中sVCAM-1、sPECAM-1、sL-Selectin、sP-Selectinが定型発達者に比べて有意に低下していました。
これまでに得られたデータは、高機能自閉症では血液検査で検出できる異常があることを示し、スクリーニングツールとしての有用性が示唆されます。

自閉症の遺伝研究

【あらまし】 自閉症の原因となりうる遺伝子の存在を明らかにしました。

【その詳細】 自閉症は一卵性双生児の発症一致率が60〜90%であり、その発症には遺伝的要因の関与が大きいと考えられます。私たちはトリオサンプル(患者、父、母)を用いた家族内相関解析法を用いて、自閉症疾患関連遺伝子を同定しました。私たちはリーリンという発生期での細胞の遊走を制御し、脳の層状構造を決定する重要な因子に注目しました。リーリンの重要な受容体であるVLDLRを解析した結果、特に高機能自閉症において有意な相関が認められ、VLDLRが自閉症の新患関連遺伝子であることを明らかにしました。また、自閉症との相関が多々報告されているセロトニン系にも着目しました。セロトニン・トランスポーターの合成、制御に関与する、STX1A、ROBO遺伝子についても同様に自閉症の家族内相関解析を行ったところ、有意な相関が認められ、STX1A、ROBO遺伝子も新たな自閉症疾患関連遺伝子であることを明らかにしました。

自閉症の疫学研究

【あらまし】 自閉症をもつ方々の半数以上に、生活背景や発達の過程の特徴があることがわかりました。

【その詳細】 私たちは母子手帳からの情報に基づく研究から、自閉症児の頭囲の発育が定型発達児と異なる軌跡を描くことを確認しました。このことは、自閉症の脳に神経の発達や成熟過程に障害があることを示唆しています。さらに、私たちは、父親が出生時高齢であればあるほど、自閉症罹患の危険率が高まることを確かめました。このことから、de novo mutationが自閉症の成因に関連していることが窺われました。

以上のように、私たちは多面的なアプローチで自閉症の病態解明に努めてきました。その成果は国際的にも高い評価を受け、さらに自閉症本人やその家族へ還元しています。

2.覚醒剤精神病のPET研究

【あらまし】 化学物質の機能を生きた脳内で見ることのできるPET画像を用い、覚せい剤使用が脳内の神経系の一部に深刻なダメージを与えることを示しました。

【その詳細】 覚醒剤の神経への毒性については動物実験では報告されていましたが、ヒトでの影響は解明されていませんでした。そこで私たちは、覚醒剤を以前に乱用していたものの調査時点で一定期間使用を中断している被験者を対象に、セロトニン神経の状態の指標となるセロトニン・トランスポーターの脳内密度と、抑うつ気分や攻撃性などの臨床症状との関連を、PETを用いて調査しました。
健常者群に比べ、覚醒剤乱用者群において、広汎な脳領域において、セロトニン・トランスポーター密度の有意な減少が認められ、覚醒剤の乱用期間が長いほど、この低下が強いことが確認されました。また、乱用者において、脳の3領域(眼窩前頭、側頭葉、前帯状)のセロトニン・トランスポーター密度が、攻撃性と相関していることが示されました。

この結果から、覚醒剤の長期乱用は、その使用の中断にもかかわらず、セロトニン・トランスポーター密度の低下を来たし、またこの低下は覚醒剤使用者の攻撃性とも関連していることが示されました。

3.統合失調症に関する研究

【あらまし】 統合失調症は思春期〜青年期に始まり、100人に1人が発症するといわれる代表的な精神疾患です。主な症状として幻覚や妄想が知られており、ドパミン神経系の過剰な活動のためといわれています。また、進行性に記憶や学習などの認知機能が障害されていくことも多く、これらの症状を食い止めるためのさまざまな研究が行なわれてきました。しかし、依然として根本的な原因や症状の成り立ちがよく分かっていません。そこで、私たちは以下の3つに的を絞った研究に取り組んできました。

この結果から、覚醒剤の長期乱用は、その使用の中断にもかかわらず、セロトニン・トランスポーター密度の低下を来たし、またこの低下は覚醒剤使用者の攻撃性とも関連していることが示されました。

PETによる統合失調症新規治療薬の評価

【あらまし】 新しく開発された統合失調症治療薬が有益であるかどうかを、症状の経過の観察、および、脳内の化学物質のPETによる観察を加えて評価しました。その結果、この治療薬が有益であること、PETを使った薬効評価が有用であることを明らかにしました。

【その詳細】 ペロスピロンは日本で開発された新規抗精神病薬で、in vitro ではドパミンD2及びセロトニン2A受容体に高い親和性を有していることが知られていました。しかし、ヒト in vivo における同薬の脳内薬理動態については不明でした。そこで私たちは、PETを用いて同薬の脳内薬理動態を調査しました。健常男性を対象にペロスピロン8mgを内服後のドパミンD2及びセロトニン2A受容体の占有率を算出し、また、同薬の血中濃度と各受容体占有率の関連について検討することにより、同薬の薬理学的特徴を調査しました。各受容体占有率実測値より得た血中濃度-占有率予想曲線から、ペロスピロンはドパミンD2受容体占有率よりセロトニン受容体占有率の方が大きいことが示されました。この結果から、ペロスピロンは非定型抗精神病薬の特徴を有していることがヒトで初めて明らかとなりました。

統合失調症の脳形態学的変化

【あらまし】 小中学生の時期に統合失調症を発症した患者は、脳画像に特定の異常があり、その異常度は症状と強い関連があった。

【その詳細】 小児期や思春期など早期に発症する統合失調症は臨床研究において、病態の障害の程度が成人期発症例に比べ重症であることが多いことが知られています。私たちは、早期発症統合失調症を対象にし、MRIを施行し、その脳形態学的測定を行いました。その結果、統合失調症群は健常対照群と比較し、左上側頭回、左下前頭回そして左傍海馬回の3つの脳灰白質部において体積の減少が認められました。また、後帯状回の体積は、妄想・幻覚などのいわゆる陽性症状の重症度と負の相関を示しました。これらから、統合失調症の病態を脳形態学的レベル及び認知機能レベルで理解する上で有益な情報が得られました。

統合失調症モデル動物の作成、評価

【あらまし】 大量の放射線を被ばくすると統合失調症が起こりやすくなるという報告からヒントを得て、ラットの脳に放射線をあてる実験を行ったところ、脳内の神経幹細胞数が著しく減少し、統合失調症と類似の症状が見られました。

【その詳細】 1986年に起きたチェルノブイリ原発事故の事故現場の清掃に携わった労働者達の統合失調症発症率を調査したところ、事故後4年を経過してから統合失調症の発症率が一般の5倍に至っていたことが明らかになりました。また、脳が放射線被曝に遭遇したとき、神経幹細胞は選択的に強い障害を受けることが知られています。これらのことから、私たちは統合失調症の病因を「思春期以降におこる脳内神経幹細胞の障害が統合失調症の発症の原因である」という「統合失調症の神経幹細胞機能異常仮説」を独自に創始し、検証しました。私たちは、成熟動物の脳内神経幹細胞を放射線で障害させることにより統合失調症のモデル動物を作製しました。X線をラットの頭部に照射すると、約3ヶ月経過したのちに海馬・脳室下帯の神経幹細胞はほぼ完全に選択的に破壊されることが示されました。これらのラットでは認知機能・社会性の障害、先行刺激抑制(Prepulse Inhibition:PPI)の障害、メタンフェタミン投与による運動量の増加など統合失調症に類似した行動変化が生じました。これら所見から、X線照射動物が統合失調症のモデルとなる可能性が示唆されます。

抗精神病薬の新たな作用機序の解明

【あらまし】 統合失調症治療薬が、脳内で神経新生(脳細胞の誕生)を促すことによって薬効を発揮していることを突き止めました。

【その詳細】 抗精神病薬の作用機序として、神経新生への関与が近年着目されています。成体脳におけるニュ−ロン新生に果たすドパミン神経伝達系の役割を明らかにする目的で、側脳室下帯と海馬歯状回におけるニューロン新生に与える選択的ドパミンD1およびD2受容体作動薬の慢性投与の効果を検討しました。成熟ラットに、D1作動薬(SKF82958、0.5 mg/kg)、D2作動薬(Quinpirole、0.3 mg/kg)、D1拮抗薬(SCH23390、0.1mg/kg)を14日間腹腔内に連続投与しました。薬物投与最終日にBrdUを腹腔内投与し、その翌日、灌流固定した脳BrdU陽性細胞数を調査しました。すると、BrdU陽性細胞密度は、D1作動薬では有意な増加を認めた一方、D1拮抗薬では、対照群に比して有意に減少していました。以上から、ニューロン新生は、D1受容体を介したドパミン神経伝達により促進される可能性が示唆されました。

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